和道流空手道・柔術拳法の流祖 初代宗家 大塚博紀 最高師範 著
空手道 第一巻 P14 ≪妥協と協調≫
全て物事の解決は力や妥協でなすべきでない。歴史や現実を無視して一挙に理想に持ち込もうとすれば必ず衝突が起る。粘り強く辛抱強く不屈の精神でじっくりと話合わねばいけない。お互に粘り強く辛抱強く不屈の精神で話合っても,平行線をたどって解決の道が容易に見出せないこともある。然し辛抱強く話合っている内に少しでも同意点が見出せれば平行線は僅かでも相寄ってくる。 徐々にでも僅かでも相寄ってくればいつかは両線は一点に重なるのである。それが例え一年先でも十年先でもよい。でも理想に近づこうとする進歩的精神は往々にして辛抱しきれない。威力や力による解決が早いので遂いには鉄兜でゲバ棒を振り廻したくなる。威力や力で貫ぬいたものはいつかは必ず威力や力で倒される。中国や西欧の歴史を見ても我が国の歴史を顧みてもうなづける。光秀は三日天下といわれ、光秀を討った秀吉の天下は僅かに三十余年,徳川幕府は二百六十余年で亡びた。家康が天下をとって以来、幕府は天草の変以外は兵を動かさず政治力で次々と大藩を取漬ぶした。さすがのビスマルクも家康の治国の政治の巧妙さには感心したそうだが、兵力を用いなかったために比較的長つづきしたのかも知れない。力や妥協は必ず禍根を残す。不屈な粘り強い武道精神を発揮して正しい信念に基づく協調が大切である。